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第2回ヒューリック杯白玲戦第5局(西山朋佳白玲VS里見香奈女流五冠) [将棋]

西山白玲の2勝2敗で迎えた第5局です。

〔中継サイト〕
https://www.shogi.or.jp/match/hakurei/

棋士対局ランキングで1位は服部慎一郎五段で○局ですが、女流トップの里見香奈はそれを遥かに上回る44局にも達していています。西山白玲も41局です。さすがにこの局数は異常です。
女流棋戦のタイトル戦だけでもかなりの局数になるのに、女流代表として棋戦にも参戦し、しかも勝てば勝つほど局数が増えます。
疲労からか、里見女流五冠の調子もいまひとつです。西山白玲も高勝率は維持しているものの危ない将棋が増えています。
棋戦への参加は女流棋士にもチャンスを与えるという意味がありますが、さすがに現在の状況はちょっと考える必要があると思います。

〔棋譜〕
http://live.shogi.or.jp/hakurei/kifu/2/hakurei202210010101.html

ということで、将棋です。
いつものように相振り飛車となります。独創的な序盤を見せることが多い先手里見女流五冠ですが、対局過多の影響か、無難な序盤でまとめます。
西山白玲は相振り飛車になると向かい飛車にして手堅い序盤の印象があります。
お互いに組み合って、さあ中盤です。
里見女流五冠のジャブに、歩を手にした西山白玲が継ぎ歩からたれ歩と先手玉頭に爆弾を設置しますが、AI的にはこれが疑問手だったようです。
このたれ歩を爆発させるのは、歩を回収して、金駒を打ち込む必要がありますが、この2手が回る前に里見女流五冠の攻めが刺さり始めます。
その後、里見女流五冠の手堅い銀打ちが悪手で一気に差が縮まりますが、逆転は許さずに踏みとどまります。
西山白玲としては、終盤の8四歩に同歩と取ったのが敗着となりました。
以降は駒を後手の攻めが切れ模様なので、駒を渡さずに確実に追い詰めたところで西山白玲は投了しました。
117手まで里見女流五冠が勝利し、白玲奪取まであと1勝に迫りました。

第6局は10月15日(土)に東京都台東区の浅草ビューホテルで行われます!
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【SS】齊藤想『天文部葬』 [自作ショートショート]

小説でもどうぞ第11回に応募した作品です。
テーマは「別れ」です。

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『天文部葬』 齊藤想

 大変なことになった、と誠也の背中からとめどなく冷や汗が流れた。
 目の前にあるのは、わが高校の天文部に代々引き継がれてきた150ミリ反射式望遠鏡。先輩たちの手作りで、引退する三年生が最後の天体観測会の前に改良をほどこすことが伝統となっていた。
 そのおかげで、いまでは土星の輪の隙間も
くっきり見ることができる。
 今年の三年生は誠也ひとり。だからお手軽にと、CCDカメラを最新式のものに付け替えることにした。これで多少なりとも色彩が向上するはずだ。
 ところが、天体観測会の当日に試運転をしてみると、画面にコバエらしき影が動き回っている。
 組み立ての失敗だ。どこかに隙間が生じていたらしい。
 あと二時間で天体観測会が始まる。高校に顧問と後輩たちが集まってくる。
 田んぼと山に囲まれた校舎は、天文部の活動拠点としては最高だ。だが、部室にひとりでいると、この上なく不安を増大させる。名前の知らない鳥が、夜の帳を下ろす合図のように鳴きながら飛び回る。
 もう一度、やり直すしかない。
 誠也はそう決心すると、時計の針を気にしながら、望遠鏡の分解を始めた。

 二時間後。顧問と天文部員たちの目の前にあったのは、いびつに歪んだ望遠鏡だった。慌てて組み立てたのか、ネジの止め方もバラバラだ。
 誠也は、部室の角に積み重なっている段ボールの裏側に隠れた。だれも気が付かない。じっと成り行きを見つめる。
 顧問が望遠鏡に触れた。倍率を変更しているようだ。金属がきしむ音が部屋に響く。望遠鏡の筒に書かれた歴代の部員たちの寄せ書きが、悲鳴をあげているかのようだった。
 誠也は耳をふさいだ。部員が顧問の横に集まる。顧問が悲しそうに首を横に振る。
「これは無理だな。軸が完全にずれている。テンモンソウをあげてやるか」
 部員たちが首をひねる。
「テンモンソウとは?」
「天文部葬のことだ。久しぶりだから君たちが知らないのも当然だが、天文部葬はわが部の伝統行事で、いままで大切にしていたものを失ったとき、いままでありがとうの気持ちを込めて供養してあげるんだ。物が壊れたときもそうだし、時には夢が破れたときも、失恋したときにも天文部葬を開催したことがあったんだ」
「なにそれ。失恋でお葬式は嫌だなあ」
 部員たちの間に笑いが広がる。
「破れた恋よさようなら。新しい恋よこんにちわ。古い恋を供養してこそ、新しい恋を迎えることができる。悲しむためのお葬式ではなく、人生前向きになるためのお葬式だ」
 顧問は部室の隅を見た。そして、視線を正面に戻す。
「祇園精舎の鐘の音じゃないけど、形あるものの無いものも、いつかは壊れる。それは仕方がないことなんだ。壊れることは失うことではなく、いままでともに過ごした時間を大切に胸に抱いてください、という天からの声なんだ。
 さて、最後のご奉公だ。気持ちを込めて供養するために分解するぞ。君たちもこれを機会に、望遠鏡の構造を勉強しておけ」
 部員たちはわらわらと、古びた望遠鏡に群がった。
 あれだけ大切にしてきた望遠鏡が、顧問の一声でゴミにされていく。その様子を、誠也は信じられない様子で眺め続けた。
 ふっと、体が軽くなった。

 望遠鏡はただの部品になった。望遠鏡の外装に書かれた歴代の寄せ書きは、記念として残すことにした。
 バラバラになった部品をゴミとして分類しながら、顧問は昔話を始めた。
「いまから十年前のことだ。山田誠也という真面目な部員がいてな」
 彼の物語は悲痛極まるものだった。大切にしてきた望遠鏡を壊したと思い込み、実は前から問題があったのだが、部長としての責任感から自殺してしまったのだ。
 そのときの望遠鏡が元部員の家から発見されて、こうして戻ってきたのは何かの因果なのかもしれない。
 物は壊れるんだよ。いくら大切にしていても、宇宙の法則には逆らえない。使えば使うほど、寿命が縮まる。けど、それこそこの世に誕生してきた物にとって、幸せなことではないのか。
 顧問は部員たちとともにゴミ袋の前で両手を合わせた。いままで宇宙への夢を抱かせてくれた感謝の気持ちを込めて。 

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