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【SS】齊藤想『恋愛禁止法』 [自作ショートショート]

小説でもどうぞ第6回に応募した作品です。
テーマは「恋愛」です。

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『恋愛禁止法』 齊藤想


 政府によって恋愛が禁止された。
 世にはびこる犯罪を分析したところ、半分は金銭がらみ、残りの半分は恋愛感情のもつれだと判明したからだ。
 恋愛を無くせば世の中はより安全になる。それが政府の目的だった。
 次の日から、全ての学校は男子校と女子高に分けられた。恋愛映画は禁止。テレビも動画もゲームも男女別にカテゴライズされ、独身男女が同世代の異性を見ることはできなくなった。
 結婚を希望する若者は、政府に恋愛申請書を提出することが義務付けられた。申請書を提出すると、申請内容に基づき、AIが適切な交際相手を選んでくれるのだ。
 政府が自画自賛する完璧なシステムだったが、当然のことながら若者たちの恋愛感情は止まらない。禁止されれば禁止されるほど燃え上がるのが、恋なのだ。
 こうして、若者たちの間で隠れ恋愛が流行るようになった。
 恋愛も命がけだ。
 見つかれば警察に連行され、所在地非公開の刑務所にぶち込まれる。そこで徹底的に洗脳され、出所したときにはロボットのように恋愛感情を失ってしまう。
 恋愛を夢見る若者たちは、お互いに血判書を取り交わす。裏切りは許されない。これは命がけのゲームなのだ。
 政府の目が光っているので、大っぴらに異性と話すのは難しい。お互いの家を行き来するなどもってのほかだ。
 そこで、若者たちは一斉に犬を飼い始めた。
 散歩中の犬が仲良くなり、やむを得ず立ち止まるというストーリーだ。犬についての情報交換をするふりをして、異性との会話を楽しんだ。
 家の都合でペットを飼えない盟友には、どこからともなく散歩の代行が舞い込む。もちろんお相手も代打がやってくる。
 政府が若者たちはペットを介して恋愛を楽しんでいることを察知すると、犬にもソーシャルディスタンスを守るよう通告した。
 建前は犬を介した感染症予防だが、政府の本心はだれもが知っている。
 次なる作戦はチラシ攻撃だ。
 いまも昔も、学生のアルバイトとしてチラシ配布は人気である。チラシに手紙を忍ばせて、密かに文通をするのだ。
 チラシが確実に相手に渡るように、秘密の暗号を取り決めるのはお約束だ。中には相手の部屋のサッシに差し込む勇者もいる。
 配布するのはチラシだけとは限らない。ミニコミ誌もあれば、地域のお知らせもある。
 恋愛禁止の発表ともに、新聞の配達部数が急激に伸びたことは、驚くことではない。さらに出前や、牛乳の宅配まで驚異的な伸び率を見せた。
 政府に禁止されれば、だれもが異性との出会いの手段を考える。知恵と油は絞れば絞るほど出るものなのだ。
 さらに直接的な手段として、泥棒を装う猛者もでてきた。密かに侵入したつもりが、家族に見つかったという設定だ。
 この作戦は夜に行われるため、往々にして泊りとなる。そのため、恋愛が進んだ末の最終段階で取られることが多い。
 ときおり恋愛を密告する者もいる。もちろん嫉妬心からだ。ライバルを刑務所に送り込めば、自分が有利になると勘違いしている。
 恋愛同盟による血判状の誓いは重い。仲間たちが密告者を捕まえ、どこかに連れ去ってしまう。
 一度裏切ったものは、二度裏切るかもしれない。仲間を守るためには、一度の過ちでも許してはならない。これが冷酷なる恋愛社会の掟なのだ。
 なかには、いまの制度を良しとする人々もいる。政府に結婚を申し出て、AIで相手を選んでもらった男女だ。彼らはAI族と呼ばれて、恋愛同盟から蔑まれていた。
 だが、二人が満足しているのなら、誰からも非難される言われはない。胸を張って結婚生活を楽しめばよい。
 こうして、政府の意図とは異なり、世間は大恋愛時代へと突入した。反権力の人々や無政府主義者だけでなく、政府に隠れて恋愛することがブームになった。
 恋愛をしない人間は政府の犬とさげすまれ、反政府熱が高まると同時に、空前絶後のベビーブームが到来した。
 結果として、少子化問題は解決した。
 世論調査の結果、選挙に不利だと悟った政府は、AIによるマッチングシステムを除いて慌てて恋愛禁止法を撤回した。
 こうして恋愛同盟は勝利したのだ。
 いつしかこの法律は、かつてアメリカで施行された有名なある法律になぞらえ、こう呼ばれるようになった。
「現代の禁酒法」と。

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