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第63期王位戦挑戦者決定リーグ最終一斉対局 [将棋]

伊藤匠四段が挑戦者決定戦に進出できるか注目です。

〔中継サイト〕
http://live.shogi.or.jp/oui/

紅組の注目は藤井聡五冠と同級生で、最年少棋士の伊藤匠四段です。ここまで3勝1敗で豊島将之九段に勝てば挑戦者決定戦に進出です。ただ、負けると陥落の可能性もあります。
残留の可能性があるのは、近藤誠也七段、佐々木大地五段までです。
その紅組の結果は

[紅組]
 伊藤 匠四段 ○―● 豊島将之九段
   http://live.shogi.or.jp/oui/kifu/63/oui202205020501.html
 近藤誠也七段 ●―○ 佐々木大地五段
   http://live.shogi.or.jp/oui/kifu/63/oui202205020601.html
 西尾 明七段 ●―○ 黒沢怜生六段
   http://live.shogi.or.jp/oui/kifu/63/oui202205020401.html

となり紅組優勝は豊島将之九段、残留は佐々木大地五段となりました。伊藤匠四段は挑戦者決定戦進出まであと一歩に迫りながら、無念の陥落です。

白組の優勝争いは糸谷哲郎八段か澤田真吾七段の2名に絞られています。
勝てば挑戦者決定戦進出ですが、負けると陥落というDEAD OR ALIVE な状況です。
残るひとつ残留枠ですが、羽生善治九段か池永天志五段です。
その結果ですが……

[白組]
 澤田真吾七段 ●―○ 羽生善治九段
   http://live.shogi.or.jp/oui/kifu/63/oui202205020301.html
 糸谷哲郎八段 ●―○ 池永天志五段
   http://live.shogi.or.jp/oui/kifu/63/oui202205020201.html
 久保利明九段 ○―● 千葉幸生七段
   http://live.shogi.or.jp/oui/kifu/63/oui202205020101.html

となり、優勝は池永天志五段、残留は羽生善治九段です。池永五段は嬉しいタイトル挑戦者決定戦への初進出となりました。
羽生九段は2連敗からの3連勝で、今年もリーグ残留を果たしました。

藤井王位への挑戦を争う挑戦者決定戦は、5月31日におこなれます!

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【掌編】齊藤想『時間の夏休み』 [自作ショートショート]

第18回坊ちゃん文学賞に応募した作品その3です。

―――――

 庭の向日葵が首をくるりと回したある日のことだ。
 突然、時間が「夏休みを取る」と宣言した。時代を反映して、インターネットを通じての宣言だった。
 公表された声明は、現状に対する不満にあふれていた。
「この国の住民は、時間をこき使いすぎる。一分か二分のおくれでギャーギャーわめき、早ければ早いでクレームがくる。朝も夜もあったもんじゃない。おれもたまには休みたい。時間だって疲れる。というわけで、しばらく南の国でバカンスを楽しむことに決めた。あとは野となれ山となれ」
 どこか投げやりな態度った。
 その日を境に、世の中は変わった。時間の流れがメチャクチャになったのだ。

 父が芋虫のようにベッドから這い出てきた。
 時間が夏休みになってから、世の中の全てが狂い始めている。
 電車のダイヤはあってないようなものだ。電子メールもいつ届くか分からない。電話が鳴ったかと思えば、未来からの伝言が届く始末。
 これでは仕事にならない。
 ということで、父の会社は臨時休業に入っている。父だけでなく、ほとんどの会社は休みだ。もちろん学校も休校だ。
 父はボサボサの頭をかるくかいた。
「翔はもう起きていたのか。ずいぶんと早いなあ」
 父は壁にかかっている時計を見た。短針と長針が逆さまに動いている。時計など無意味になっているのに、まだ時間を確かめる習慣が抜けないらしい。
 翔の視線を感じた父は、苦笑した。
「時間なんて忘れてしまえばいいのになあ。そうだ、今日は海にで行くか」
「電車もバスも動いていないよ。それに、海なんか見てどうするんだよ」
「意味などないさ。自転車をつかえば、日が暮れるまでにつくだろう」
「ずいぶんと気の長い話だね」
「それに食料も調達する必要があるしな」
 もちろんスーパーもやっていない。商品がいつ入荷するのかわからないので、店を開こうにも開けないのだ。ときたま開いている店もあるが、たんに閉める時間が分からなくなっているだけで、店員がだれもいないというパターンが多い。
「さあ、元気をだして出発だ」
 父はリュックサックを背負うと、自転車にまたがった。母と妹はまだ寝ている。そもそもいつが朝で、いつが夜のか分からない。いつご飯を食べたのかもあいまいだ。
 腹が減ったら食べる。眠くなったら寝る。
 そんな感じで、日々が過ぎていく。
 海を見たいとも思わないが、暇つぶしにはなるだろう。
 ぼくは父の背中を追いかけながら、自転車のペダルを踏み続けた。
 不思議なことに、時間がなくても、太陽は昇るし風も吹く。青空を見上げれば夏らしい入道雲が流れていくし、夜になると天の川が夜空を彩る。
 何も変わらない気がするし、全てが狂っている気もする。
 時計がこの世に生まれる前は、こんな毎日を送っていたのかもしれない。ぼくはそんなことを思いながら、ひたすら海を目指した。
 父はときおり草むらに入ったり、農家の庭先にお邪魔したりして、食料を集めた。現金が通用するときもあれば、物々交換になるときもある。おなかが減ったら、野イチゴをつまんだり、草むらでジャガイモをゆでたりして食べた。半分は家で待つ母や妹のために残した。夏らしい日差しを浴びながら食べるバタじゃがは、この上なくおいしかった。
 どのくらい時間がたっただろうか。
 二回ほど小休止を挟んで、海についた。
 父と同じように考えた家族がいるのか、何人かが意味もなく砂浜を歩いている。砂浜につけられた足あとは、波に浚われては消えていく。
 その定期的なリズムは、まるで砂時計のようだった。初めて時間を見つけた気がした。
「ようやくついたなあ」
 父はひと仕事を終えたかのように、背伸びをした。
 海は何も変わらない。波は寄せては返す。海水を指先に少し付けて舐めたら塩辛い。沖合ではカモメが優雅に舞い、その下では外国船が忙しそうに海を駆けずり回っている。
 唐突に父が話を始めた。
「いまから二十年ほど前に、二〇〇〇年問題というのがあってなあ」
「なにそれ」
「昔のコンピューターはメインメモリーが限られていたので、西暦を下二桁で処理していたんだ。八〇なら一九八〇年、九〇なら一九九〇年だ。ところが二〇〇〇年になると困ったことが起こる。二〇〇〇年ではなく、一九〇〇年と認識する恐れがあったんだ」
「そんなの対策を取ればいいじゃない」
「そう簡単な問題じゃない。古いコンピューターは大量に残っていたし、バグを取り除きながらシステムを更新するのはとても大変なんだ。結局、多くの国々で祈るしかなかった。何も起きませんように、と」
「それで、どうなったの?」
「結果として、何も起きなかった。もちろん小さい問題は発生したかもしれないけど、世間を揺るがすような大問題にはならなかった。大騒ぎしただけに拍子抜けさ。だけど、世の中というのは、そういうものだと、パパは思うんだよな」
 父は片手で軽く砂浜をつかんだ。指を広げると、砂が風に吹かれながら落ちていく。
「だから、時間の夏休みだって、いまは大変だけど、そのうち慣れると思うんだよな。それで慣れてきたころに、時間が戻ってきて、またバタバタするようになって」
 翔は砂浜に腰を下ろした。
「このままがいいなあ。ずっと夏休みの気分だ」
「そうはいかんだろう。時間がメチャクチャでも、生きるために人々は畑を耕し、商品を生産し、それらをお金や物と交換しなければならない。ただ、こんな世界でも、なんとなるような気もするけどな」
 父は立ち上がった。
「さあ、帰るか。家族が待っているから」
「日が落ちる前に帰れるかな」
「お天道様に聞くしかないな。なにしろ、時間なんてあってないようなものなのだから」
 二人は軽く笑うと、再び自転車をこぎ続けた。永遠のような一瞬だった。

 家に帰ると、妹が残念そうな顔をしていた。
「時間がそろそろ帰ってくるって」
 翔と父はパソコンの画面を見た。そこには「もう少し休みたかったけど、みんなの迷惑を考えて、やむなく復帰することにした」という感じの建前を並べながら、休みに飽きたとか、南の島は暑すぎるとか、刺激がなくてつまらないとか、そんな本音がときおり顔を出す文面だった。
 父はパソコンを覗き込んだ。
「ワーカーホリックだな」
「なにそれ?」
「仕事中毒ということさ。時間も仕事をしないと落ち着かないらしい。明日から元通りか。世の中はこんなもんだ」
「明日がくれば、でしょ?」
 翔の返事に、父は笑った。
 日が暮れたあとで、家族は翔と父があつめてきた野イチゴとジャガイモを食べた。まるで最後の晩餐のような気分だった。
 時間にも家族がいるのかな、そんなことを、翔は頭の片隅で思った。

―――――

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