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第29期大山名人杯倉敷藤花戦第1局(里見香奈倉敷藤花VS加藤桃子女流三段) [将棋]

清麗戦に続く里見女流四冠と加藤女流三段との八番勝負となりました。

〔中継サイト〕
http://live.shogi.or.jp/kurashikitouka/

ここ最近の里見女流四冠はほぼ中飛車一本やりですが、マイナビ杯の本選で久しぶりに居飛車を採用し、後手のゴキゲン中飛車を受けて立ちました。
このときの対戦相手が里見咲紀初段で、里見女流四冠の妹です。
将棋界初の姉妹対決となり、話題となりました。
将棋は姉がきっちり貫録を示しましたが、昼食のボリュームでは妹が圧倒したようです。
妹は細身ですが、大食漢で有名だったりします。
里見女流四冠が居飛車を選択したもの、純粋に妹との対戦を楽しむつもりだったのかもしれません。
さあ本局では意表の居飛車の採用はあるでしょうか!

〔棋譜〕
http://live.shogi.or.jp/kurashikitouka/kifu/29/kurashikitouka202111010101.html

ということで将棋です。
加藤女流三段の先手で始まり、戦形は安定のゴキゲン中飛車になりました。
いつもの銀対抗ですが、後手はコンパクトな銀冠、先手は金を二枚縦に並べる囲いを採用します。
名前はありませんが、頻繁に採用されるようになれば命名されるかもしれません。
お互いに通いなれた道のはずです。
そこから銀をぶつけていつもの攻防が始まります。
ここまで評価値的には先手有望なので勝ち切れそうですが、そうはいかないのが将棋です。
加藤女流三段は打ち込んだ4二角を7五に自然に成り返りますが、この手を境に評価値が逆転していきます。
その後の角頭の弱点を突いた端攻めが厳しく、香車を釣り上げたあとは一転してゴツク露骨に金を打ち込んで攻めていきます。
最後は教科書にでてくるような綺麗な必死が掛り、加藤女流三段は投了しました。

里見倉敷藤花は7連覇に向けて幸先のよい1勝を挙げました。
防衛の掛かる第2局は11月20日(土)に倉敷市芸文館で行われます!

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【SS】齊藤想『コツ粗しょう症』 [自作ショートショート]

TO-BE小説工房第80回に応募した作品です。
テーマは「骨」です。

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 『コツ粗しょう症』 齊藤 想


 おれはいつも上司から不器用だと言われる。
 封筒の糊付けですら普通にできない。テープを使えば途中で捩じれてしまう。スティックノリならのりしろからはみ出て、封筒とテーブルを合体させてしまう。
 電話番でも通話中に受話器を落とすのはしょっちゅうだし、おまけに、電話のたびにコードが激しく絡まる。
 金曜日の終業時に全社員で行う会社の掃除だって、ほうきで埃を集めているつもりが、気が付いた逆にゴミを散らかしてしまい、お局軍団から露骨に嫌な顔をされてしまう。
 ありとあらゆることが、こんな調子だ。普通の新入社員がこなすべき雑用が、まったくできない。
 入社してから半年以上も辛抱強く見守り続けた上司も、さじを投げた。
「ちょっと病院に行ってみないか。良い先生を知っているから」
 ついに病気扱いされてしまった。
 落ち込むおれを、上司は容赦なく病院まで引っ張っていく。そこで医者から日常生活についての様々な質問をされ、簡単な計算問題を出され、さらには血液検査から、МRIまで受けさせられた。
 検査に同行している上司は、自慢の口ひげをいじりながら、待合室で語り掛ける。
「私も昔は君と同じでなあ、この病院に助けられたんだよ」
「はあ」とおれは答えるしかなかった。
 検査の結果はすぐに出た。医者は難しい顔をしながら、奇妙な病名を伝えてきた。
「コツ粗しょう症状です」
「高齢者に多い、骨がスカスカになる病気ですか?」
「それは骨粗しょう症。あなたの症状は骨ではなくコツが足りないコツ粗しょう症です。МRIで撮影した脳の断面図を見てください。脳のこのあたりがコツなのですが、スカスカでしょう」
 おれは医者が指す場所を見るが、どこがスカスカなのか分からない。
「ご安心ください。幸いにも、あなたの知能は正常です。むしろ標準以上でしょう。いまから治療すれば間に合います」
「変な薬でも飲まされるのですか?」
「何を言うのですか。コツ不足を解決するのは、古来よりたったひとつの方法しかありません。他人のコツを盗むのです。その盗んだコツを、脳のこのスカスカな部分に注入してやるのです。そうすれば、あたなのコツ不足はすっきり解決です」
「ではコツを盗まれたひとは……」
「コツを失う分だけ、コツ粗しょう症になるでしょうなあ。けど、世の中はそういうものです。お互いに盗みあって、なんぼの世界ですから」
 医者はことなげなく口にした。隣に座っている上司がニヤリと笑った。
「気にすることはない。おれも様々なひとからコツを盗んで、ここまで出世したんだ。これからコツの盗み方を教えてやる」
 会社に戻ると、お局軍団がほうきでゴミを丁寧に集めているところだった。
「ほれ、あいつらのコツを盗んでこい」
「どうやって……」
「さっき説明しただろ。まず彼女たちの動きをよく見て、真似して、タイミングが合ったと思ったら思い切って後頭部に指を突っ込むんだ。先生にコツの場所を教えてもらっただろ。ほれ、このように」
 上司がさり気なく女子社員に近づくと、その動きを真似したと思ったら、まるで髪留めについたゴミを払うかのように指先を後頭部に差し込み、彼女の頭から黄色い何かを引き出した。
「こいつがコツだ。コツは自分で盗まないと身につかない。自分でやってみろ」
 お局たちは、急に掃除が下手になって、不思議そうな顔をしていた。
 その日から、おれは誰かのコツを盗むことに集中した。テープの切り方、掃除の仕方、受話器の持ち方、書類の整え方など、ほんとうに身近なことから始めた。
 コツが溜まると、医者のもとにいき、コツを注入してもらった。医者もおれの回復具合に目を見張っていた。
 ある日、おれはひときわ大きなコツを手に入れた。重さといい、色艶といい間違いなく一級品だ。
 そのコツを一目見た医者は言った。
「これは、あたなの上司のコツですね」
 おれは頷いた。おれは様々なコツを盗み、そのコツを上司が盗み続けていた。そのコツを盗み返したのだ。元はと言えばおれのコツでもあり、だれかのコツでもある。
「それをどうする気ですか?」
「だれかに盗ませるさ。世の中はそういうものだろ」
 おれはニヤリと笑った。


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