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【ホラー】齊藤想『天井裏の秘密』 [自作ショートショート]

TO-BE小説工房第74回に応募した作品です。
テーマは「天井」です。

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 小学生の直行にとって、天井裏は未知への冒険だった。
 同級生が、直行に魅惑的な囁きをする。
「屋根のメンテナンスのために、家のどこかに天井裏への入口があるらしいぜ」
 直行はすっかり興奮し、プラスチックバットを相棒にひたすら天井を小突き続けた。
 そして、ついに秘密の通路を発見した。二階の押し入れの一番の奥だ。そこの板を強く押すと、僅かながらズレて、天井裏への入口がぽっかりと空いた。
 いますぐにも入りたい。しかし、天板近くまで積み重なっている布団が邪魔をするし、両親の寝室なので布団を乱すと怒られる。
 仕方なく機会を伺っていたところ、これから両親と弟と買い物に出かけるという。しかも母親が布団をベランダで干し始めた。
 このチャンスを逃すことはない。
 直行は両親と弟が家を出たら、さっそく懐中電灯を片手に押し入れへと侵入した。頭が入るほど天板をずらして、天井裏をライトで照らす。
 そこは、ここが自宅であることを忘れてしまうような異空間だった。 
 木肌がむき出しの梁と柱に、無造作な屋根の下地。まるで、木材のジャングルだ。
 直行は、光を屋根裏の奥に向けた。
 雪のように積み重なった綿埃の先に、唐草模様の風呂敷包みが置いてある。
 天井裏に隠してあるぐらいだから、見られてはいけないものだろう。
 だが見たい。だからこそ見たい。
 直行は壁を蹴り、背をそらせ、右手を風呂敷に伸ばした。
 あともう少しで届く。その瞬間、直行は腰を抜かしそうになった。風呂敷包みの中から笑い声が聞こえたのだ。
 風呂敷みが直行に気が付いたのか、床を這うようにして、モゾモゾと近づいてくる。
 直行は慌てて頭をひっこ込めると、天板を元に戻した。いまのは何だ。暗闇による目の錯覚か。そうだ。きっと、そうに違いない。
 車のブレーキ音がした。両親と弟が帰ってきたのだ。
「やあこんにちわ」
「宿題はちゃんとやったか」
「何もおかしなことはない?」
 直行は、何食わぬ顔で答えた。
「何も変なことはなかったよ」
 あらそう、という感じで母親が答えた。

 次の機会はすぐにやってきた。また両親が弟を連れてでかけたのだ。直行も誘われたのだが、「宿題があるから」と断った。
 車が自宅から離れると、直行はすぐに天井裏へ向かった。例の風呂敷包みの中身を確かめなくては、安心して眠れない。
 今回は、用心のために、パパのゴルフバックからアイアンを取り出した。いざとなったら戦うつもりだ。
 今日は押し入れに布団が詰まっている。
 直行は悪戦苦闘しながら、布団の隙間から手を伸ばし、天板をずらした。この前より重い。そう感じていたら、いきなり例の風呂敷包みが落ちてきた。
 風呂敷包みは布団の上で跳ねながら畳の上に転がり、中に入っていた三つの球体が外に飛び出した。
「やあ、こんにちわ」
「宿題はちゃんとやったか」
「何もおかしなことはない?」
 出てきたのは、両親と弟の生首だった。三つの首は、楽しそうに談笑を始めている。
 母親の生首が、直行に微笑みかける。
「何も怖いことはないのよ。これは、とても普通のことだから」
 直行は慌てて生首を風呂敷で包むと、天井裏に押し込んだ。
 その日の夜、直行は家族の顔を見ることができなかった。
 次の日、直行は昼休みの校庭で同級生に秘密の道を見つけた話をした。すると、その同級生は目を丸くした。
「なに、お前、その話を信じたのかよ。そんなのは昔の話で、いまの家にはそんな抜け穴なんてないから」
「え、マジ?」
「最近の家は気密性が高いから、そんなスースーする場所なんか作るわけないだろ」
 そう同級生に笑われると、あれは夢だったのかという気になってくる。
 その時、上級生が蹴り飛ばしたサッカーボールが飛んできた。ボールが同級生の後頭部に直撃する。
「おい、大丈夫か」
 直行は声をかけようとして、言葉を失った。同級生の首がずれている。
 同級生は何事もなかったように、首を戻すと、直行に言った。
「こんなこと、普通だろ?」


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第14期マイナビ女子オープン第5局(西山佳朋女王VS伊藤沙恵女流三段) [将棋]

西山女王の2勝2敗で迎えた最終局です。

〔中継サイト〕
https://book.mynavi.jp/shogi/mynavi-open/

タイトル挑戦を続け、悲願の初タイルまでの回数が最も多いのは、木村一基九段の7回目の挑戦で獲得が最多です。
女流棋士と棋士を同列で比べることはできませんが、伊藤沙恵女流三段は女流タイトルに挑戦を続けること8回目です。
しかもフルセットになることもたびたびで、今回で4回目です。
戦績からするといつ戴冠してもおかしくありませんが、女流2トップの壁は厚く、ここ最近は一方的に敗れることが多かったです。
それが、今回は2勝2敗と五分に渡り合い、いよいよフルセットにまで持ち込みました。
初タイトルまであと少しです。
さあ、伊藤女流三段の悲願の初タイトルはなるでしょうか!

〔棋譜〕
https://book.mynavi.jp/shogi/mynavi-open/result/14/mynavi202106010101.html

ということで、将棋です。
最終局で先手番を引いたのは西山女王です。
伊藤女流三段は初タイトルのかかる一戦ということもあるのか、対抗形で銀冠から穴熊へと進化させます。
本局に対する思いが伝わるような陣形だと思います。
西山女王は石田流を採用し、伊藤女流三段が銀冠穴熊に組み替えている途中に6二歩と手裏剣を放ち、攻め込んでいきます。
先手も先にと金を作りますが、実戦的に穴熊は固くて遠いので、互角の戦いだったと思います。
均衡が崩れたのは、72手目でした。
西山女王が桂捨ての鬼手で角を働かせようとしたのに対し、伊藤女流三段はあえて桂馬を取りませんでした。
しかし、この桂馬が銀と交換となり、しかも穴熊を大きく乱したことで一気に先手優勢になります。
以降は伊藤女流三段も粘ろうとしますが、先手玉にあやがなく、そのまま押し切られてしまいました。
これで伊藤女流三段は無念のタイトル戦8連敗です。
初タイトルは次の挑戦に持ち越しです。

フルセットまで持ち込まれましたが、やっぱり西山女王は強かったと思います。
西山女王防衛おめでとうございます。
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