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【書評】チャチャヤング・ショートショート・マガジン第4号 [書評]

amazonで購入できる同人誌です。


チャチャヤング・ショートショート・マガジン4号(通巻6号)

チャチャヤング・ショートショート・マガジン4号(通巻6号)

  • 出版社/メーカー:
  • 発売日: 2017/12/13
  • メディア: Kindle版



同人誌ではありますが、参加している作家陣は各種媒体に寄稿しているなどプロといっても過言ではないひともいます。
それだけレベルの高い同人誌です。
岡本俊弥『ビブリオグラフィ』は本格SF短編ですし、深田亨『ミツ子さんのお散歩』はしっとりとするファンタジーテイストの佳作です。
ショートショートでは和田宜久『夏の時計』がじわじわくる怖さがあります。
購入して損のない同人誌だと思います!
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第44期棋王戦第3局(渡辺明棋王VS広瀬章人竜王) [将棋]

渡辺棋王の連勝で迎えた第3局です。

【中継サイト】
http://live.shogi.or.jp/kiou/

「永世棋王」の資格条件は5連覇のみで、いくら獲得しようと5連続とならないと資格をえられません。
この永世棋王の資格保持者は羽生善治と渡辺明の2名だけで、羽生九段は12連覇というとんでもない記録を持っています。
渡辺棋王は第2位で6連覇中でいま7連覇を目指して戦い続けています。
タイトル戦の挑戦者は、勢いのある棋士が上がってくるわけですから、連覇というのは安定した強さがあって初めてできることです。
流行に追いつける新しさ、多彩な戦術に対応できる柔軟さ、体調の整え方など、長期間の連覇には必要な能力がたくさんあると思います。
渡辺棋王はその能力を備えている数少ない棋士のひとりです。
さあ、渡辺棋王はさらに連覇を伸ばすことができるでしょうか!

【棋譜】
http://live.shogi.or.jp/kiou/kifu/44/kiou201903100101.html

ということで将棋です。
将棋は後手が角交換を拒否して飛車先の歩を切らすという趣向を見せ、先手は雁木模様に組みます。
渡辺棋王の主張は玉の固さです。
玉を囲いに入れると、渡辺棋王は広瀬竜王の銀立ち矢倉に真っ向から仕掛けていきます。
飛車もきり飛ばし、細い攻めを繋げることができるかどうかです。
この当たりの手順、コンピューター的には疑問手が多かったようですが、いかにも人間らしい阿吽の呼吸の整った指し回しだと思います。
ギリギリのところで均衡が保たれていましたが、おそらく敗着は98手目の5五歩です。
広瀬竜王は手順に銀を引き、これで飛車の打ち場所がなくなりました。
おそらくは銀取りに飛車を打ちたかったのだと思いますが、速度負けしているので、銀取りが効きませんでした。
最後は自ら技を掛けられにいき、121手まで広瀬竜王が1勝を返しました。

第4局は3月17日(日)に栃木県宇都宮市「宇都宮グランドホテル」で行われます!
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【公募情報】第4回暑さ対策川柳コンテスト [公募情報]

温暖化が進む地球にぴったりです。

【主催者HP】
http://www.hitosuzumi.jp/senryu/

主催者は熱中症予防声かけプロジェクトです。
と書かれても主体が見えてきませんが、ようするに環境省です。
日本の暑さをどう乗り切るかがテーマですが、過去受賞作品を読むと、お役所らしく真面目で手堅い作品が採用されているようです。
熱中症対策に自身のあるひと向けに!

<募集要項抜粋>
募集内容:川柳
テーマ :熱中症対策
最優秀賞:10万円
募集締切:平成31年4月24日
応募方法:インターネット
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第12期マイナビオープン挑戦者決定戦(里見香奈四冠VS加藤桃子奨励会初段) [将棋]

西山女王への挑戦権は有力者2名の争いとなりました。

【中継サイト】
https://book.mynavi.jp/shogi/mynavi-open/

里見香奈女流四冠の成績は圧倒的です。
ここ3年間で、タイトル戦、男性棋士以外で負けたのはわずか2回です。加藤桃子女流初段相手でもタイトル戦以外では負けたことがなく、現在5連勝中です。
ただお互いの勝ち上がりかたには若干の差があり、加藤女流初段は盤石な将棋で勝ち上がってきました。
一方の里見女流四冠は、準決勝で磯谷真帆アマ相手にヒヤリとする場面がありました。
しかし、若干不利になっても、チャンスをつかむと一気にひっくり返す腕力は、さすが四冠とも言えます。
磯谷アマの健闘をほめるべきかもしれません。
さあ、女流全冠制覇に向け里見女流四冠がまた前進するのか、それとも加藤桃子奨励会初段が待ったをかけるのでしょうか!

【棋譜】
https://book.mynavi.jp/shogi/mynavi-open/result/12/mynavi201903080101.html

ということで、将棋です。
先手となった里見女流四冠はエース戦法である中飛車を採用します。
銀を繰り出す間に後手に5筋の歩を取られますが前例のある形で、作戦のひとつです。
交換した角を打ち合い、後手が角のラインから玉を外したところから前例のない将棋となります。
加藤奨励会初段は7五歩から先手の角を苛めにいきますが、それが先手の攻めを引っ張り込んで危険でした。
しかし、まだまだ互角の範囲内で評価値は先手優勢から互角をいったりきたりでしたが、61手目の4四歩を同角ととったのが分水嶺だったようです。
以降は飛車切りから先手の攻めが筋に入り、85手まで里見女流四冠が勝利し、西山女王への挑戦権を獲得しました。
これで里見女流四冠は対加藤桃奨励会初段相手に6連勝、通算でも15勝6敗と、ちょっと差がついてきた印象です。

西山女王との五番勝負は、4月9日(火)に神奈川県秦野市「元湯 陣屋」で開幕します!

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第77期順位戦展望【C級2組・最終戦】 [将棋]

すっきりと決定です。

【対戦表】
https://www.shogi.or.jp/match/junni/2018/77c2/index.html

昇級枠は3つ。
今年度絶好調だった及川拓馬六段が最終節を待たずに昇級を決めています。
生まれたばかりの娘にうれしいプレゼントです。
最終節で決まるのは残り2名ですが、まず順位2位の石井健太郎五段が中堅の中村亮介六段に勝利し、自力で昇級を決めました。おめでとうございます。
残り1枠ですが、まず佐々木大地五段が矢倉規広七段に勝って2敗をキープし、あとは1敗の佐藤和俊六段のキャンセル待ちです。
今年40歳を迎える棋士でずっとC級2組ですが、通算勝率は高く、なぜC級2組のままなのか不思議な棋士のひとりです。
残留争いですが、今年は降級点1点持ちが少なかったため、フリークラス入りは渡辺正和五段だけですが、来期は2点が7人となるので、壮烈なサバイバル合戦となりそうです。
A級通算14期、現役最年長の桐山清澄九段ですが、寄る年波には勝てず、今年は10連敗で、2つめの降級点がつきました。来期はいよいよ背水の陣となります。通算1000勝まで届くかどうか微妙です。
71歳現役という時点で、ものすごいのですが。

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【書評】今泉忠明監修・里中遊歩著『絶滅動物調査ファイル』 [書評]

絶滅動物と原因をマンガで知ることができます


「もしも?」の図鑑 絶滅動物 調査ファイル

「もしも?」の図鑑 絶滅動物 調査ファイル

  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2013/11/27
  • メディア: Kindle版



監修の今泉忠明は親子三代の動物学者の家系です。
著作も多く慣れているのか、断定を避け、慎重ないい回しが目立ちます。
ミステリタッチですが、良心的な本だと思います。
ドードーを初めとする有名な絶滅動物もしっかり抑えてあります。

個人的に気になるのは、エピオルニスです。
恐竜のような名前ですが、巨大なダチョウのような鳥で、3.5mもありました。
このような巨鳥が1800年代前半まで生きていたことを思うと、もったいないと感じてしまいます。

絶滅動物について簡単に知りたいひとのために!

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第77順位戦【C級1組・最終戦】 [将棋]

藤井聡太七段と師匠の杉本昌隆八段の同時昇級がなるかどうかが注目されました。

【C級1組対戦表】
https://www.shogi.or.jp/match/junni/2018/77c1/index.html

勝てば自力昇級の杉本八段は、中堅千葉幸生七段相手に見事勝利し、B級2組への復帰を決めました。
50歳でのB級2組昇級は史上4番目の高齢記録です。おめでとうございます。
藤井聡七段は都成竜馬五段に勝利し9勝1敗の成績を上げましたが、順位の差で今回は涙を飲みました。
そしてもう1枠の昇級を勝ち取った棋士は、藤井聡七段の順位戦連勝記録を止め、唯一の土をつけた男、近藤誠也五段です。
最終戦の増田康宏六段も若手有望株で決して楽な相手ではありませんが、勢いの差か見事に勝利し、こちらも藤井聡七段に負けないスピード出世です。
C級1組から2組への降級者は5名です。
タイトル1期、A級通算6期の田中虎彦九段がついにC級2組に陥落です。
序盤のエジソンと言われ、対振り飛車の有力戦法として、居飛車穴熊を定着させた功労者です。
4月で62歳を迎えるので、あと何年現役でいられるのか、年齢との戦いになりそうです。
70歳現役を目指して欲しいです!

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【書評】渡辺房男『お金から見た幕末維新』 [書評]

円誕生の秘話が盛りだくさんです。


お金から見た幕末維新――財政破綻と円の誕生(祥伝社新書219)

お金から見た幕末維新――財政破綻と円の誕生(祥伝社新書219)

  • 作者: 渡辺房男
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2010/10/30
  • メディア: 新書



明治政府誕生から明治後半まで、経済的には混乱期でした。
とにかく明治政府には金がない。
ただでさえ建国時の費用がかかるのに、西南戦争まで発生して莫大な戦費がのしかかる。
やむなく紙札を刷って様々な費用に当てるわけですが、当然ながらインフレが発生する。
そんなこんなの悪戦苦闘が続きます。
通貨の制度が固まるまで、多種多様な紙幣が発行されたのですが、そうした江戸末期~明治中期までの歴史がぎゅっと凝縮されています。

日本における通貨の変遷を知りたいひとのために!

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最近の日常【平成31年3月上旬】 [日常]

〔車のキーが動かなくなった話〕
キーを回してもカギが開かない。
うちの車は運転席しかカギ穴がない。どうにもならないので、車の保険のロードサービスを頼む。
で、診断結果は単なるバッテリー上がり。
すっかり忘れていたけど、ロックはモーターで解除されるので、バッテリーが上がると運転席しか開かない。
で、あまりに寄せすぎて運転席から出られないと、こんなことになる。
まあ、なさけないことこの上なし。
ちなみに業者は750ccのバイクでやってきた。
ちょっとびっくり。

〔ソフトボールのシーズンが終了した話〕
次男が所属するソフトボール部のシーズンが終了した。
小学6年生なので、これで卒業です。
思えば小2から始めて、ずいぶんと長く関わったものだ。
次男は小4からレギュラーになり、となると親もいろいろと手伝いをせざるを得なくなり、ここ3年間土日はほぼほぼソフト漬けの日々だった。
遠征のために何回車を出したことは数知れず、スコアもほぼ1人で丸々2年間取り続けた。
幸いにもメンバーにも恵まれ、全国大会に2回出場し、県大会も制覇することができた。
全国大会を目指すために連合チームを結成する市町村が多い中、うちは単独で県大会を制覇したのだから、これは快挙だと思っている。
圧倒的に強いわけではなかったので、市外大会では優勝したのは県大会を含めて2回だけだったが、予選落ちは一度もなく、最後のシーズンの成績をざっと数えたら42勝6敗、うち4敗は全国大会2回と県大会2回。間違いなくチーム史上最強だった。
疲れたけど、楽しい3年だった。特に最後の1年は濃厚だった。

最初は次男のプレーをヒヤヒヤしながら試合を見ていたけど、いま振り返ると、学年レベルからすると上手だったと思う。
とくに現6年世代はレベルが高く、4年時代から当時の6年生より打率が高かった(小学時代の1学年差は大きく、それが2学年差となると普通は手が届かないレベル)。
振り返るととんでもないメンバーに恵まれて、次男は幸せだったと思う。

ソフトから解放されて、ほっとする反面、もう次男のユニフォーム姿が見れないかと思うと少し寂しくもあったりする。
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【短編】齊藤想『冬の手品師』 [自作ショートショート]

14年前に「ゆきのまち幻想文学賞」に応募した作品です。
いやはや、なつかしい。

―――――

『冬の手品師』 齊藤想

 多香子は、高校の校門を出たところで、頬に冷たい物が当たるのに気がついた。空を見上げると、灰色の空に白い粒がちらつき始めている。初雪だ。
 処女雪を頬で受け止めるていると、多香子は右手を強く引かれるのを感じた。クラスメイトの理奈だ。
「ね、ね、初雪だよ。今日は冬の魔法使いがやってくる日だよ。去年の初雪の日に約束したから、絶対にいるはずだよ」
 この町には、初雪の日にだけ現れる謎の手品師がいる。それを、理奈は魔法使いと信じている。もちろん、魔法と信じているのは理奈だけだ。
「あれは魔法じゃなくて手品なの。理奈は、クリスマスになると、いまだにわくわくしながら枕元に靴下をぶら下げるひとでしょ」
「別にワクワクしたっていいじゃない。多香子がなんと言おうと、あの人は手品じゃなくて魔法なの。じゃあ、先に行くから」
「ちょっと待ってよ!」
 理奈は多香子の手を離すと、一気に走り始めた。理奈は陸上部で短距離の選手だ。あの猛練習は、この日のためではないかと思うほど早い。多香子は呆れながら、自分のペースで理奈の後を追いかけた。
 多香子が駅前の広場に到着すると、いつもの手品師は、手品の準備をしているところだった。道行く人がコートの中で縮こまって歩いているのに、彼はしわ一つ無い燕尾服を着こなし、背筋を伸ばして黙々とテーブルを組み立てている。すでに陽は大きく傾き、うっすらと雪が積もり始めている。
 ようやく、多香子の息が整った。
「いくらなんでも、そこまで本気をだすことはないじゃない」
 多香子も運動部だ。だが、足の速さでは理奈にかなわない。
「ごめんごめん。後であったかい飲み物おごってあげるから」
「面白くなかったら缶ジュース二本ね。コーヒーにココア」
「了解!」
 口を尖らす多香子に、理奈は元気な敬礼で返した。
 手品の準備ができたようだ。手品師は組み立てたばかりのテーブルの前で、深いお辞儀をした。観客は、スーツを着た男性や大学生風のカップルなど、二十人ほどに膨れ上がっている。
 燕尾服の紳士は周囲をゆっくりと見渡すと、両手を薄暗くなった空にそっと持ち上げた。白い手袋をはめた指が交差した瞬間に、どこからともなくカードが現れた。バネのような指先でカードを弾くと、そのたびに新しいカードが現れては宙を舞う。背景の模様に雪の結晶をかたどったあの人独自のカードだ。不思議なことに、このカードはいつの間にかに消えてしまう。これも、理奈が彼を魔法使いと信じる理由の一つだ。
 手品師は観客の反応を楽しむように見回すと、今度は机から握り拳大の氷を取り出した。彼が力をこめて手をかざすと、氷は豆の木が成長するかのように伸びていく。杖ほどの高さになったところで彼が手を伸ばすと、その透明な塊は氷であることを証明するかのように凍りついたアスファルトの上でくだけた。
「みてみて、本当にすごいでしょ」
「こんなの簡単なトリックよ。カードは隙を見て裾やポケットから取り出して手の甲に隠し、あとは手を振るタイミングに合わせて観客に見せているだけ。氷が大きくなるのも、角度を変えれば簡単よ。あの机が丁度良い目隠しになっているの。なぜ、彼が手や腕を大げさに動かしたりする必要があるのか分かる? 一瞬の不自然な動作を隠すためのカモフラージュなの。あの手袋だって、手を大きくするための道具なのよ」
「それじゃあ、なぜ飛ばしたカードがなくなるの? なぜあの人が手を伸ばしただけで氷が砕けるの?」
「それは……何か仕掛けがあるのよ」
 その言葉を聞いた理奈が、勝ち誇ったように胸を張る。
「分からないのなら黙ってみてなさいよ。素直に魔法を楽しみなさい」
「私は理奈に付き合っているだけだもん」
 多香子はコートの襟を立て、亀のように首を隠した。二人の会話が聞こえたのか、手品師は理奈と多香子に軽くウインクをすると、繊細な指で袖口をつまんで肘まで捲り上げ、手袋も燕尾服にしまいこんだ。彼の腕はガラスのように白く、子供のように細かった。
 手品師は手のひらの美しさを自慢するように両手を観客に見せると、そのまま手のひらを合わせて口元で拝むような仕草をした。そして軽く手を膨らませると、指の隙間から白い粒があふれ出した。それは、点灯したばかりの外灯の光を反射して滝のように輝き、どことなく驚きの声が上がった。まさに魔法だった。彼が両手を空に突き上げると、残りの白い粉が勢いよく飛び散る。多香子が白い粒を受け取ると、ひんやりとした感触と共に水に戻った。
「見てみて! これは雪の結晶よ。多香子もこんな手品みたことないでしょ」
 多香子はしばらく目を丸くしていたが、おもむろに口を開いた。
「今度こそネタが分かったわ。あの人の口元を見なさいよ。こんなに寒いのに、息が白くなっていないじゃない。これは映画なんかでよく使われるテクニックなんだけど、冷たいものを口に含むと息が白くならないの。これこそ、口の中に雪を隠している証拠よ」
 理奈は多香子の袖を引いた。
「いくらなんでもそれは無理じゃないの。唾液で溶けちゃうわよ」
「それくらい何か道具を使えば防げるわよ」
 理奈は黙り込んだ。理奈も口元で拝む仕草に不自然さを感じていたのかもしれない。多香子はようやく勝った、と思いながら、同時に悲しくなった。いった私は何をしているのだろうか。誰のために、何のために、戦っているのだろうか。
 手品師は、両手を広げたまま、観客の反応を確かめていた。人壁の中で違う雰囲気を感じたのか、多香子と理奈の前で視線が止まった。彼は理奈を見ると、少し眉をひそめて悲しそうな顔をした。理奈は制服を包むコートの裾を両手で閉じた。その姿を見た多香子は、激しい後悔に襲われた。自分が理奈の夢を壊したのだ。
 彼は、頭が地面につくほど深いお辞儀をした。
「次が最後の手品になります」
 多香子は初めて彼の声を聞いた。冷え切った空気に合う、高くて澄んだ声だった。
 手品師は上着を脱ぐと、肩口を持って顔を隠すように掲げた。そのまま上下させて仰ぐと、彼が雪雲になったかのように、際限なく白い結晶が飛び出してきた。雪の帯が燕尾服の紳士を中心に広がっていき、それは瞬く間に観客達を飲み込んでいく。
 多香子は目を丸くした。理奈も呆然としている。観客から自然と上がった歓声が彼を包み、その中に二人の声も含まれていた。
 彼は上着で仰ぐ速度を増していった。風が粉雪を吸い上げ、桜吹雪のように散らす。
「それ!」
 手品師の掛け声が響き渡るのと同時に、上着が宙を舞った。後には何も残らなかった。

 多香子は目の前で起きたことが信じられず、今まで人間が立っていたはずの場所に駆け寄った。多香子は観客達に聞いてみたが、全員が首を横にふった。もしかして地面に隠れているのかと思い、つま先でアスファルトを叩いてみた。もちろん、ただのアスファルトだった。彼が投げ捨てた上着も、あったはずの机も、忽然と消えていた。多香子は理奈に何度も手品のタネを聞かれたが、ひとつも答えることができなかった。
 
 次の日、登校前に多香子は寄り道をして、冬の魔法使いがいた広場に向かった。同じ事を考えていたのか、先客として理奈がいた。すでに雪は溶け、地面が濡れた跡すら残っていない。
「やっぱり魔法だったでしょ?」
 理奈はそう言った。その言葉を聴いた瞬間、多香子は胃から鉛が抜け出たような安堵感に包まれた。
「それにしても不思議だなあ。まさか地面に隠れるわけないし、上着を上下させるところに秘密があることは分かっているけど」
 多香子はいつもの強がりを言った。けど、これが単なる強がりであることは理奈も理解している。雲ひとつ無い青空で、雪は降りそうに無い。
「きっとあの人は雪の化身だったのよ。だからいくらでも雪を出せるし、息も白くならない。最後の魔法だって、あの人は雪に戻っただけなんだわ」
 多香子はお腹を抱えて笑った。理奈の幼稚さを嘲る笑いではない。心から嬉しいのだ。
「理奈はすぐ夢を見るんだから。もっとも、それが理奈のいいところなんだけどね」
 多香子はお姉さんのように理奈のおでこを小突いて、理奈の腕を引く。
「こんなところでぼやぼやしていると遅刻するよ。宿題は来年に持ち越しだね」
 多香子は理奈の腕を引いた。今年はあと何回雪が降るだろうか。たくさん降ればいいな。幼い頃と比べてめっきり雪が降る回数の減った冬空を見ながら、多香子はそう願った。

―――――

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