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齊藤想『悪魔の兵器』 [自作ショートショート]

TO-BE小説工房(第52回)に応募した作品です。
テーマは「戦争」でした。

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『悪魔の兵器』  齊藤 想

 無人戦闘機が空中戦を繰り広げている様子を、息子は飽きもせず眺めていた。
「もう帰らないか」
 父は息子を歩くようほどこしたが、小さな体はかたくなに首を横に振る。
「だって、楽しいんだもん」
「それなら、日が暮れるまでだぞ」
「はーい」
 息子の嬉しそうな声は、翳り始めた夕日の中に溶けていった。
 第三次世界大戦後に締結されたガウス条約で人間同士の戦闘は禁止され、戦争は無人兵器同士で行うよう定められた。もっとも、第三次世界大戦の前から兵士は最新電子機器を扱う特殊技能集団へと変貌し、兵士に施す教育が各国とも重荷となっていたので、自動化の流れは動かしがたいものとなっていた。
 世界中の無人兵器に組み込まれている共通チップには、人間を殺せないシステムが内蔵されている。この共通チップは人工知能の中枢も兼ねており、外すと無人兵器が機能しなくなる。共通チップは条約の担保となる安全弁も兼ねていた。
 味方の戦闘機が火を噴いた。侵略者は凱歌を上げるように、旋回した。
「このままだとわが国は負けるかもしれないなあ」
「負けたらどうなるの?」
「あの国の要求はわが国が保有する小さな島の所有権の回復と、移民の積極的な受け入れだ。まあ、小さな島はくれてやっても大したことはないが、問題は移民のほうだな。自由民主主義を標榜するわが国が移住の自由を認めないのはけしからんと、まあ、建前はそのようなところだ。実情はというと、あの国は人口が膨らみすぎて、自国民を輸出しないと国が立ち行かないのだよ。戦争で人が死なないものだから、そのような理由で気軽に戦争が起きるようになってしまった」
「先生が言っていたけど、あの国は悪魔の兵器を開発したから、わが国より強いの?」
 父は考え込んだ。噂だけが世界中を駆け回り、実態はだれも知らない。だが、勝ち誇っているあの戦闘機を見ていると、悪い胸騒ぎがする。
「悪魔の兵器など存在しない。ただ単に、いままでの兵器より多少強力になったというだけだ」
「あの戦闘機がそうなの? それとも後ろにいるプロペラが二枚付いている大きなヘリコプターが悪魔の兵器なの?」
 父は、茜雲の下に見慣れぬヘリコプターが飛んでいるのを見つけた。子供のころに読んだ古代兵器図鑑で見たような気がするが、どうにも思い出せない。戦闘ヘリとは異なる太くて不恰好な機体が近づいてくる。このヘリコプターの侵入を防ぐわが国の戦闘機は見当たらない。わが国が投了する日も近いと、父は感じた。
「もう家に帰らないか」
 不吉な予感が父を揺さぶる。息子は渋った。
「だって、もし、あのヘリコプターが悪魔の兵器だとしたら、この目で見たと学校のみんなに自慢できるじゃないか」
「そんな自慢など、しなくて良い。もう戦争見物は終わりだ」
「自慢だけじゃないよ。だって、どのような兵器なのか写真に撮って役所に届ければ、感謝状をもらえるんだ」
 息子が手にしているカメラのレンズが光った。奇妙な兵器に夢中になっている。敵国の国旗が描かれた機体が、着陸の態勢に入った。
「いいからくるんだ。逃げるぞ」
 父は言い知れぬ恐怖にかられた。だが、幼いころなら簡単に抱えられたはずの体が、悲しいことに持ち上がらない。
 抵抗を排除できずにいるうちに、ヘリコプターは着陸し、中から人間がパラパラと出てきた。息子は笑った。
「まだ戦争は終わっていないのに、もう移民がやってきた。気が早い国だなあ」
 父は奇妙な兵器の名称を思い出した。そして、短く叫んだ。
「いや違う。あれこそ悪魔の兵器だ」
 目の前で着陸したのは輸送用ヘリコプターで、人間同士が戦っていた時代に人間や人間が使う武器を運ぶために開発されたものだ。
 機体から出てきた人間たちは兵士といい、手にする火器で容赦なく人間を撃ち殺す。当然のことながら、人間である彼らには殺人を抑制するチップは組み込まれていない。
 父は兵士たちに背中を向け、凶弾から息子を守ろうとした。しかし、そのような行為は無意味だった。悪魔の兵器たちは、この国の浄化を楽しむかのように、過去には機関銃と呼ばれていた銃器を親子に向けた。
 草むらの中に、大きな死体と、小さな死体が転がった。
 戦争が終わるのは、もうすぐだった。

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