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たかたらさんが、講座で書いた作品をUPしてくれました。 [ショートショートの紹介!]

たかはらさんが、ぼくの講座で書いてくれた作品を、インターネットにUPしていただきました。

【小説家になろう】
http://syosetu.com/

【たかはらさんの作品はこちらから】
http://mypage.syosetu.com/595549/

小説家になろうは、大場鳩太郎様を初めとして、多くのプロ作家を輩出した注目サイトです。そこにたかはらさんも、いざ参戦!といった感じです。
自分が書いた作品ではないのですが、タイトルを見ただけでいろいろと思い出してしまい、順番に読み返してしまいました。
ということで、作品からひとつ紹介します。


―――

 たかはら 『くっつけ屋とひとしずくの勇気』

 僕に手を振り、去って行く彼女の背中がどんどん小さくなる。最後の緊張気味で、どこか少しさみし気な笑顔が、胸に刺さった。それは僕が初めて見る彼女の表情だった。僕はその場に立ち尽くして、ため息をつく。全くなんて皮肉な商売なんだろう。
 持ち前の世話好きと、小売店の長男に生まれて身についたこの人当たりの良さで、十歳の時にはすでに看板を背負っていた「くっつけ屋」 今までに恋愛を実らせた件数は両手の指を五回は屈伸させなければ数えきれない。そんなに頑張って来たのはみんなの「笑顔のため」だった。それが三ヶ月前。僕のもとにやって来た彼女を見て、世界が一変した。好井由紀。僕が小学校のころからひそかに好きだった彼女が、よりによって僕の親友の園原の写真を持って現れたのだから、たとえ僕がその場で発狂したとしてもきっと神様は許してくれたと思う。
「くっつけ屋」の看板に恥じないよう、好井に喜んでもらえるよう、僕は精いっぱいのレクチャーをした。何せ自分の親友のことだから、手に取るように好みも分かるし、考え方や価値観も分かる。好井は熱心にそれをメモし、実践してくれた。園原がエビフライが好きだと教えればエビフライ入りの弁当を手に火傷をしながら作ってきてくれたし、あいつの志望校が市内トップの中央高校だと教えれば、必死になって勉強して合格圏内に入ってくれた。僕が頑張れば頑張るほど、彼女は僕から離れていくこの皮肉。それでも僕は、胸の奥の黒いものをひた隠しにしながら、彼女に苦手な英語を教えたりもした。辛くはなかった。彼女が嬉しそうにしてくれるから。だからすぐにでも口から飛び出そうだった「黒々としたものたち」は、彼女の笑顔ですぐに大人しくなってくれたんだ。
 でも、いつからか好井が僕に対してすっきりと笑わなくなった。好井に「瀬川くんには好きな人はいないの?」と聞かれてからだったろうか。あのときは何て答えたんだろう。そうだ確か「みんなの笑顔が僕の好きな人だから」とかなんとか答えた気がする。営業スマイルで笑った僕を彼女がさみし気に見たのを思い出した。今思えばあれが分岐点だったんだろう。きっと僕にあきれたんだと思う。
 ありがとう、好井。好きだった。小学校のころから、ずっと。
 僕は届かない思いを彼女の消えた校舎裏へと投げた。好井。僕に弱さを教えてくれてありがとう。僕のずるさを教えてくれてありがとう。次の時には、きっと逃げないから。きれいな言い訳に、逃げたりしないから。
 俯いたとき、目からぽたぽたと雫が零れ落ち、乾いた地面にこげ茶色の染みを作った。ひっきりなしに落ちてくるそれはまるで僕の胸の奥の「黒々たち」のようで、彼らはわらわらと増殖し続けて口々に僕を責めたてた。「また逃げる気かよ」「次の時には~、なんて、言い訳だろ?」「かっこつけんなよ」 ――さあ今だ。走り出せ! それらは僕に呼びかける。あのときの好井のさみし気な笑顔が胸に浮かんだ。……好井、好井! 涙も払わずに僕は走りだした。好井が前のように笑ってくれるなら、「くっつけ屋」なんて看板は、もういらない。
 好井は校舎裏へと曲がったすぐ先にいた。あいつはまだ来ていないようで、好井は少し俯いて暗い顔をしていた。
「好井!」
 僕が呼ぶと、彼女はびくっとしてこっちを振り返った。
「くっつけ屋は、返上した! ――好井。僕は好井が好きだ! 小学生のころから、ずっと、ずっと好きだったんだ!」
 必死だった。息が上がっていたけれど、切れ切れだったけれども勢いで言い切った。好井は目を丸くして、僕を見ながら瞬きを何度もしている。そりゃそうだ。いままで「安全だ」と思いきって何でも相談してきた僕が、いきなりこんなことを言い出したら。
「――困らせるつもりはないんだ。ただ、最後に僕の気持ちを伝えたくて」
 とにかく、言うべきことは全部言えた。これ以上は困らせなくなかったから、僕は「がんばれよ?」と一言残してその場を去ろうとした。だけどその時背中から好井が抱き付いてきたんだ。
「よかった――。追いかけてくれなかったらどうしようって思ってたの」
 最初は園原くんが好きだったけど、一生懸命な瀬川君のことをいつの間にか好きになってた。彼女が背中越しに僕に言った。もし本当に神様という人がいるのなら、僕は彼にこう言うだろう。
 こんな皮肉なら、僕は何度味わったっていい、と。 

―――

このときのテーマは『皮肉』でした。
ですが、なにより「くっつけ屋」というアイデアが良いですし、さらにその設定を下支えする「持ち前の世話好きと、小売店の長男に生まれて身についたこの人当たりの良さで」という一文が上手いです。
ここがないと、くっつけ屋というアイデアが上滑りして、現実感の無い話になってしまいます。
とまあ、ぼくがいろいろ書くより、素直に読んでいただくのが一番ですね(汗)

GWの友として、たかはらさんの作品をぜひともご覧ください!

【ちなみに、講座はこちらです(汗)】
http://www.arasuji.com/shohen.html
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