『ダイレクトメール』 齊藤 想

ぼくのメルマガでも掲載（第１回）したことのある作品ですので、既読の方がいましたらごめんなさい。
クリスマス直前ということで、シーズンに相応しい作品を掲載いたします。

この作品はぼくが始めて書いたショートショートということもあり、思い入れのある作品です。内容的にも気に入っています。
少しでも、面白いといっていただけると嬉しいです。
それでは、どうぞ～。


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『ダイレクトメール』　　齊藤　想


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　おいおい。サンタは楽な仕事と勘違いされちゃあこまるってもんよ。あんたが想像するサンタは北の国に住んでいて、暖炉のある部屋でロッキングチェアーに揺られながら子供たちの手紙を読みふけり、クリスマスになるとトナカイのそりに乗って子供達へのプレゼントをそっと靴下のなかに入れる。おそらくそんなもんだろう。
　実はな、サンタはどこの町にもいるんだぜ。俺が属するサンタ協会によると、各町に２、３人はいるらしいな。一般人とおなじ身なりをして普通に生活しているので、ちょっとやちょっとじゃ気がつかないだけなんだ。
　それではお前さんもサンタの仕事っぷりを覗いてみるかい。
　サンタも会社員と同じ時間に起きて、満員電車に揺られて出勤だ。決してトナカイにのって出勤するんじゃないぞ。目立ってしょうがない。ぼろ事務所についたらすぐさま仕事にとりかかる。貧乏暇無しっていうもんだ。
　サンタが最初にする仕事は募金集めだ。そりゃそうだ。子供達にプレゼントをあげるにはお金がいる。まさかサンタがおもちゃやから盗んでくるわけにはいかねえよ。
　その募金集めが大変なんだ。サンタという名前を出すわけにはいかねえ。あくまで自分たちはおとぎの世界の住人で、一般の人には決して正体を知られてはいけねえんだから。
　ある者は駅前で「恵まれない子供に愛の手を！」とお願いするし、ある者は企業を回り「未来の子供達の為に基金設立にご協力を」とやる。もっとも道端で空き缶を投げ出して座っている者もいるが、これは薦められねえなあ。俺はだな、街角でギター片手にライブで募金活動だ。こう見えても、ギターはうまいんだぜ。
　最近は募金のノルマが厳しいんだよね。とにかくプレゼントを買うのにお金がかかる。子供たちが高価なおもちゃを欲しがるようになってきてな。俺が子供の頃はもっと質素な物だった。将棋の駒とか、人形とかなあ。俺は手先が器用だから自分で作ってプレゼントしたこともあったよ。それが今ではゲームだの、パソコンだの、金のかかるものばかりだ。おかげで経費は増大する一方ってもんよ。ここ数年間、給料が上がるどころかボーナスさえカットだ。生活するだけで精一杯だよ。
　ええい、ちょっとぐちっぽくなったな。募金のノルマを達成すると次は現地調査だ。どこの家に子供がいて、何を欲しがっているのか調査するのさ。自転車を欲しがっている子供に三輪車をあげてもしょうがない。本を欲しがっている子供にビデオをあげてもしょうがない。つまり、子供たちの需要を的確につかむのが大事ってもんよ。
　どうやって子供たちの需要をつかむかというと、やはり子供に近づくのが一番だな。学校の用務員になって調べているのもいる。おもちゃやの店員になって調べているのもいる。なかには、子供達を尾行して調べようとしたら、ちかんと間違えられた者もいる。まったく、恥ずかしいったらありゃしねえ。
　これは経験が必要な仕事だな。サンタになって１～２年では、とてもじゃないが無理だ。最低でも１０年は修業しないとな。
　俺は大ベテランだから、顔を見ただけで分かるっていうもんよ。例えばだな、ゲーム攻略本をもっている子供はゲームを欲しがる。え、そのままだって？　いやいや他にもあるんだぜ。唇の右下にほくろがある子供はミニカーを欲しがる。え、なんだそれって？　経験だよ経験。さらに今回は特別にもう一つ教えてあげよう。几帳面な人はA型だ。あ、これは血液型占いか。まあ、似たようなものよ。
　こうした準備を積み重ねて、ついにクリスマスの夜がくるのさ。この日までにプレゼントを買い込み、子供達の家、部屋の位置、欲しいプレゼントを確認するんだ。そして、一年に一度だけサンタ協会から配られるサンタの衣装を着るのさ。このときが一年で一番興奮するね。
　ちなみに言っておくが、この服は単なるコスプレとはちがうぞ。この赤と白の衣装には特別な力があるんだぜ。
　それはだな。この衣装を着ると、空を飛び、壁をすり抜けることが出来るようになるのさ。この服のおかげでサンタは自由に子供達の部屋に出入り出来て、こっそりとプレゼントを置くことが出来るのさ。
　さらなる特徴として一般人には見えなくなる。けど、この服にも欠点があって、本当に純粋にサンタを信じている子供には見えちゃうんだな。もし、気づかれちゃったら、そっと唇に人差し指を当てて、「これは二人だけの秘密だよ。サンタさんとの約束だからね」ってやると、子供はだまってうなずいてくれるんだ。そしてプレゼントを見て喜んでくれる。「サンタさん、ありがとう！」って。
　その瞬間が、サンタになって良かったなと思う時かな。とにかく、子供の喜ぶ顔を見るのが大好きなんだよね。子供の仕草といい、表情といい、かわいいんだな。一年間の苦労なんて簡単にふっとんじまう。お前さんも、サンタになればわかるってもんよ。
　こんなサンタの世界にもひとつ困ったことがあるんだ。最近サンタになろうという若者が少ないんだよね。確かに安月給だし仕事はきつい。だがなあ、夢とやりがいだけは、どんな仕事にも負けないつもりだ。
　どうだい、君も我々の仲間になってサンタになってみないかね。

　就職活動中の僕に、このようなダイレクトメールが届いた。
　そして、僕はサンタになった。僕も子供の頃にサンタを見た一人だから。


（終わり）
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この作品は、ある賞で優秀賞をいただきました。
（珍しく、著作権は著者の手元にあります）
自分で自作の解説を書くのは難しいですが、「サンタの人材募集」という設定が評価されたのかなと思います。
展開も途中でユーモアを交えながら、夢とやりがいという普遍的テーマに繋げていき、最後は２行でじつは今までのは「ダイレクトメール」でした、で落とす。
このオチを見て、タイトルの意味に気が付く。
当時は意識してこのような構成にしたわけではありませんが、たまたま嵌ったという感じです。自分で書くのはあれですが、よく出来ていると思います。

三つ子の魂百までといいますが、きっと、これからも同じような構成の作品を書き続けるのだろうなあ（笑）



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コメント 8

この作品。。。大好きです。
サンタの苦労話に思わずニンマリ。。。
そして、それがダイレクトメールで。。。
タイトルとリンク♪
こういうオチ、すっごく好きです。

なんだか、懐かしい気持ちになりました。
この作品を初めて読まさせていただいたのは。。。いつだったか？
サイトーさんとお話させていただけるようになって
もう、ずいぶん経つんですもんね。。。月日の経つのは、早いです。（汗）

サイトーさんの作品には、いつも本当に刺激をいただいてます。
ありがとうございます。
これからも、たくさん勉強させていただきたいと思っています。
どうぞ、よろしくお願いいたします♪

by 春待ち　りこ (2010-12-23 00:46) 

面白かったです。さすがですね。
サンタはサラリーマンだったんですね。サラリーマンの部分がリアルに書かれているか、サンタのメルヘンの部分が際立っています。
私も、リストラされ求職活動の経験があります。あのころ、このようなＤＭが来たら、私は今ごろサンタをやっていたかも知れません。
by 雫石鉄也 (2010-12-23 09:19) 

競作ページから来ました。

するする楽しく読めて、最後に落ちて、ショートショートっって面白い！
とおもいました。オチどころもハッピーエンドで、クリスマス向き！

私は、だらだら長く書いちゃうタイプなので、勉強になりました。
by Madam Garden (2010-12-23 13:50) 

なるほどなぁ！って感心して2回繰り返して読んじゃいました。
サンタクロースをこんなふうに仕事として解釈して書くと、その素敵さが際立ってきますね。クリスマスもサンタクロースもブラッシュアップされて輝きを取り戻す感じ。
クリスマス競作企画にもまたひとつキラキラの輝きが加わりました。
サイトーさん、返す返すありがとうございます！
by 矢菱虎犇 (2010-12-23 14:48) 

発想が面白いですね。
あの人も、この人もサンタかも…って思ったら、なんだか楽しくなりますね。
ボーナスカットとか、サンタが愚痴っちゃうところも面白いですね。
そして最後にダイレクトメールだったというオチ、さすがですね。
by リンさん (2010-12-23 18:42) 

>春待ちりこさん
メルマガに掲載したのは３年半ほど前ですから、だいいぶ昔になりますね。
ちなみにこの作品を書いたのは１１年前ですから、本当に懐かしいです。

＞雫石鉄也さん
面白いと言っていただき光栄です。
サンタがサラリーマンだったら、という発想から始まっています。
お褒めをいただけたということは、狙いは達成できたのかなと思っています。

＞Madam　Gardenさん
ぼくは逆にあっさり書きすぎる傾向にあるんですよね。
中篇を書こうとするときに、無駄をそぎ落としすぎてしまうのが悩みです。

＞矢菱虎犇さん
クリスマス競作お疲れ様です。
こちらこそ、参加させていただきありがとうございます。
これからも楽しい企画を期待していますので、よろしくお願いします。

＞リンさん
サンタの愚痴は伏線として必要な部分ですが、伏線を抜いてもちょっと面白いかなと（笑）
少しでも楽しんでいただたなら光栄です。
by サイトー (2010-12-24 05:27) 

ファンタジーの中にリアル。
リアルの中にファンタジー。

作品に没頭して「サンタさんも大変だ」なんて思っていたら、ダイレクトメールでした。と、見事なオチが。

流石、サイトー先生。
素晴らしい作品を有難うございます。

私もいつか、素晴らしい作品が書けるように
勉強します（＾＾）Ｖ


by せきた (2010-12-24 23:59) 

＞せきたさん
コメントありがとうございます。
ぼくもせきたさんの助けになるように、精一杯、頑張ります！
by サイトー (2010-12-25 09:13)